大阪北部地震における大阪市の吉村市長のツイッターに対し、批判が起きているそうです。
本日の大阪市内の保育所、幼稚園、小学校、中学校、高校は、安全確保のため、全て休校にする指示を出しました。自宅で安全確保して下さい。
— 吉村洋文(大阪府知事) (@hiroyoshimura) June 18, 2018
18日に大阪北部を襲った震度6弱の地震。大阪市の吉村洋文市長が地震後に「安全確保のため、全て休校にする指示を出した」とツイッターで発信し、通常どおり授業を始めていた学校で保護者から問い合わせが相次いでいたことが20日までに分かった。「市長の一方的発信で混乱を招いた」と批判が上がっている。
地震は児童、生徒が登校し始めていた午前8時前に発生。一斉休校を知らせる市長のツイートは9時20分ごろで、市長は「既に登校している児童生徒は学校で安全確保する」と続けた。だが市教育委員会が各学校に臨時休校を指示するメールを送ったのは、1時間半もたった11時すぎだった。
(追記)
毎日新聞も取り上げました。
大阪震度6弱 大阪市、割れた休校判断 市長「全校で」短文投稿、混乱
大阪府北部で震度6弱を記録した18日朝の地震で、大阪市は同日、全市立学校を休校とした。しかし、一部で授業を継続した学校もあり、対応は割れた。市の地域防災計画では、休校判断は校長が行う決まりだが、吉村洋文市長はツイッターで早々に「全校休校」を宣言。保護者の出迎えや問い合わせの電話で学校は混乱した。
被害の全体像が見渡せない中で子どもをどう守るのか。市の防災計画は震度に応じた基準は設けず、判断を校長に委ねている。地震発生から約1時間10分後の午前9時7分、市教委が各校に送ったメールにも、休校は「校園長の判断で」と記された。
一方、吉村市長は同9時20分、ツイッターに「全て休校にする指示を出した」と書き込んだ。同10時前には市教委が再び「休校しない学校は安全確保の上、教育活動を継続して」とメールを送った。市教委が校長に「全校休校」を伝えたのは午前11時4分だった。
北区のある小学校長は、児童の登校後、すぐに休校を決断した。「泣きながら登校した児童もおり、余震があればパニックになりかねない」との思いがあった。保護者には一斉メールで連絡し、午前11時までにほぼ全ての児童が帰宅した。
淀川区の小学校では地震発生時、児童のほとんどが登校途中だった。校長は「このまま帰宅させれば余震などの危険を伴う恐れがある」と判断、児童を校内で待機させた。市長のツイッターを見て児童を迎えに来た保護者がいたこともあり、午前10時半ごろ、休校を決めたという。
一方、西成区の小学校では1限目から通常通り授業を実施した。教頭は「余震の危険がある中で子どもを帰し、一人で被災させる方が怖い。そんな大事なことをツイッターでつぶやかれても常にフォローしているわけではない」と戸惑いを隠さなかった。
吉村市長は19日、ツイッターでの「休校宣言」について、事前に教育長らと話し合った上での「マニュアルを超えた超法規的措置」だったと主張。現場の意思疎通がうまくいかなかったのは、「教育委員会と学校の連携の問題だ」と述べた。
一方、市教委は「災害対策本部の設置で市教委も本部長である市長の指示に従うことになった」と釈明。校長による休校判断を定めた防災計画の中身が変わってしまった、との認識を示した。
法律に基づいて行政を行うべき市長が「超法規的措置」と主張とするのは、全く感心できません。しかも市長は法律のプロたる弁護士です。
果たして本当に「超法規的措置」だったのでしょうか。当日の流れや関連法令等に当たりました。
※「超法規的措置」とは「登校前の時間帯に発災した場合の対応が、防災マニュアルに定められていないから」という趣旨の市長ツイートがありました。
当日の流れ
当時の流れを時系列にまとめました。
時間 | 出来事 |
7時40分頃~8時過ぎ | 児童が自宅を出発する |
7時58分 | 地震発生 震度6弱:北区 震度5強:都島区・東淀川区・淀川区・旭区 震度5弱:福島区・此花区・生野区・港区・西淀川区 震度4:その他の区 |
大阪市災害対策本部設置(本部長は市長) | |
8時過ぎ | A小学校では第一報メールが送信される |
8時40分頃 | A小学校から保護者へお迎え(=休業)が要請される |
西成区のB小学校は通常通りに授業を開始した | |
9時7分 | 市教委が各校へ「休校は校園長の判断で」とメール送信 |
9時15分頃 | 吉村市長と市教委(教育長?)が協議、防災計画を準用する形で休校を決定・指示 |
9時20分 | 吉村市長が「本日の大阪市内の保育所、幼稚園、小学校、中学校、高校は、安全確保のため、全て休校にする指示を出しました。」とツイート |
9時26分 | 吉村市長が「既に登校している児童生徒は、学校にて安全確保します。」とツイート |
10時前 | 市教委が各校へ「休校しない学校は安全を確保のうえ教育活動を継続して」とメール送信 |
10時2分 | 吉村市長が緊急会見(地上波で放映されなかった?) |
10時8分頃 | 吉村市長が会見で「本日の小学校中学校高等学校は全て休校に致します、大阪市立の幼稚園・保育所もそういった措置を執っている」と発言 |
10時30分頃 | 淀川区のC小学校は休校を判断した |
11時頃 | 北区のD小学校は、ほぼ全ての児童が帰宅した |
11時4分 | 大阪市教育委員会が各学校へ休業指示(職務命令?)メール送信、順次電話も |
11時30分 | 地震による被害及び対応状況(第1報、10時45分現在)が発表。「市立の小・中・高(幼・保含む) 登校させない 登校者は学校で待機」と記載 |
13時頃 | これまでにほぼ全ての児童が下校 |
休業・休校とする権限は校長に、教育委員会は校長へ指示可能
そもそも学校を休業・休校とする権限は誰が有しているのでしょうか。
一義的には「学校長」です。「非常変災その他急迫の事情があるときは、校長は、臨時に授業を行わないことができる。公立小学校についてはこの旨を当該学校を設置する地方公共団体の教育委員会に報告しなければならない。」(学校教育法施行規則第63条)と定められています。
休業を判断した場合、本来は電話で市教委へ連絡するものとされているそうです。ただ、当日は電話回線が繋がらない為、校務支援システム等を通じて「メール連絡で差し支えない」と伝えたそうです。
では、教育委員会が学校長へ臨時休校を指示できるのでしょうか。校長に対する教育委員会の権限は、大阪市立学校管理規則第15条に定められています。
第15条 教育委員会は、法令又は条例に違反しない限度において、校長に対し、学校の適正な運営を図るため、必要な指示及び命令を行うことができる。
2 前項の指示及び命令を行う場合を例示すると、おおむね次のとおりである。(1) 学校の教育活動、運営及び事務の処理が、法令、条例、規則その他規程に違反していると認められる場合
(2) 教育振興基本計画に定める事項に関し教育委員会の議決に基づき施策を実施する場合
(3) 学校の作為又は不作為が、幼児、児童若しくは生徒の生命若しくは身体に危険を生じさせ、若しくは生じさせるおそれがあり、又は幼児、児童若しくは生徒の教育を受ける権利を侵害していると認められる場合
(以下省略)
これは「包括的管理権」と呼ばれるものでしょうか。
今回は第2項第3号が該当しそうです。休校を指示しない学校の不作為が、児童等の生命身体に危険を生じさせるおそれがあるという考え方です。
第2項は例示列挙とされています。「学校の適正な運営を図る」という趣旨を踏まえれば、教育委員会からの各学校への臨時休校指示は問題ないものでしょう。
市長は「防災対策本部長」として市教委へ指示できる
問題は市長の権限です。市長が市教委へ休校指示を発する様に命令できるのでしょうか。
これについては何カ所かへ問い合わせを行いました。返ってきたのは「うちでは分からない」「状況を整理している」「当日の流れが全て判明していない」といった内容でした。
残念ながら「○○××という理由で問題ない」という返事は皆無でした。
教育の政治的中立性を保つ観点から、教育委員会は首長から独立しているのが建前です。教育に関する首長の権限は限定されています。
第24条 地方公共団体の長は、次の各号に掲げる教育に関する事務を管理し、及び執行する。
一 大学に関すること。
二 私立学校に関すること。
三 教育財産を取得し、及び処分すること。
四 教育委員会の所掌に係る事項に関する契約を結ぶこと。
五 前号に掲げるもののほか、教育委員会の所掌に係る事項に関する予算を執行すること。
調べた範囲において、市長が市教委へ休校を指示する権限を有しているとする内容は見つけられませんでした。
水面下で教育委員会等と会議を行い、「学校は臨時休業とする」という結論を共有していたのでしょうか。それとも吉村市長の一方的な指示や勇み足だったのでしょうか。
(追記)
ネット上の意見等を基に改めて調べたところ、該当しそうな条文が災害対策基本法で見つかりました。
第二十三条の二 市町村の地域について災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合において、防災の推進を図るため必要があると認めるときは、市町村長は、市町村地域防災計画の定めるところにより、市町村災害対策本部を設置することができる。
2 市町村災害対策本部の長は、市町村災害対策本部長とし、市町村長をもつて充てる。
6 市町村災害対策本部長は、当該市町村の教育委員会に対し、当該市町村の地域に係る災害予防又は災害応急対策を実施するため必要な限度において、必要な指示をすることができる。
学校・市教委の情報発信がなかった、遅すぎた
当時の多くの保護者は「朝に大きな地震が発生し、被害が出ている。電車も止まっているのだから、通常通りに授業を行うとは考えられない。休校だろう。」と考えていたと思います。
学校へ到着できない、遅れて到着した先生も多く、通常通りの活動を行うのは不可能だと容易に判断できました(後日、通常通りに授業を行った学校があったと聞き、非常に驚きました。)。
しかしながら、校長が休業を判断した時間は大きな違いがありました。早々に判断した学校、様々な情報を集めて慎重に判断した学校、教育委員会と何とか連絡を取ろうとして四苦八苦した学校、校長が出勤できずに判断が遅れた学校、様々な事象があったでしょう。
テンポ良く「休校とするのでお迎えお願いします」というメールを送信した学校もあれば、何ら連絡等がなく保護者が押しかけた学校もあるでしょう。
当日は電話が非常に混み合っており、学校に電話してもほぼ繋がらない状態でした。走った方が早いぐらいです。
学校から適切な情報が得られずにヤキモキしている時間帯に発せられたのが、「全て休校にする指示を出しました」とする吉村市長のツイッターでした。
教育委員会に対する市長の指示権限は不透明な部分があります。しかし、そもそも市長の発信を保護者が信頼して行動したのは、各学校や市教委が適切に判断・情報発信を行わなかった為ではないでしょうか。
情報が不足している場合、信頼できそうな発信元から発せられた情報を頼りに行動するのは古今東西に共通した現象です。それが虚偽の内容であったとしても。
(追記)
災害対策基本法に照らすのであれば、吉村市長の市教委への休校指示は「災害対策本部長」としての権限に基づくものだったと推定されます。
市教委が休校指示の伝達に四苦八苦している最中、それを全く知らなかった吉村市長が「休校を指示した」とツイートしたのが真相かもしれません。
学校から市教委への問い合わせが集中?(あくまで推測)
一方、市長ツイッターで混乱したのは学校内部だったのではないでしょうか。保護者対応ではなく、「市長ツイッターでの休校指示は、市教委も同意等しているのか」という問い合わせです。
分かりやすく例えると、支店での災害対応に関して本社(社長)からの指示がない最中、唐突に実力派会長が記者会見で「全社に○○という指示を出しました」と発したケースでしょうか。
本社の社長や対応部署からの指示では無いので、会長会見に従うとすぐに判断できません。私ならまずは本社に電話します。数百か所の支店から連絡が入ったら本社はパンクするでしょう。
今回の震災は、災害対応における学校や市教委の限界を強く感じました。少し心配です。
6/22追記:朝日新聞も掲載
朝日新聞も掲載しました。
地震当日、大阪市長「全校休校」ツイート 一部で混乱
大阪北部地震が起きた18日、大阪市内の公立校は全校が休校となった。ただ、市教育委員会が学校に周知する前に吉村洋文市長がツイッターで「全校休校」と発信し、学校側や保護者から「混乱した」との声が上がっている。
市教委によると、休校については通常、市教委の基準に基づいて校長らが判断する。震度による基準はない。災害対策本部が立ち上がれば、その指示で動くことになるが、指示が届くまでは現場の対応となる。
市は地震発生と同時に対策本部を設置。市長が本部長となり、午前9時20分、自身のツイッターに「全て休校にする指示を出しました」と投稿した。市長は19日、「被災状況を確認し、教育長と話をして判断した」と見解を述べた。
地震の影響はないと判断して授業を続けていた中学校の校長は「いつ帰ってくるのかと保護者から問い合わせもあり、混乱した」と明かす。ある小学校では、市長のツイートとほぼ同時に「通常通り」とメールで保護者に知らせたため、学校に子どもを迎えに行くか迷う保護者がいたという。
市教委がメールで全校に休校を連絡したのは午前11時4分。学校側には電話で順次、連絡をしていたもののつながりにくかったという。タイムラグが生じた形になり、担当者は「学校には登校済みの人は帰さないように、登校前の人は来させないようにと伝えていたが、連絡手段は今後の検討課題だ」としている。
繰り返しになりますが、吉村市長からのツイートは非常に役立つ内容でした。市教委や学校の判断が分からず、保護者は待ちぼうけを食らっていた状況でした。
仮に市長のツイートがなければ、多くの学校の保護者は休校するか全く分からなかったでしょう。更に大きな混乱を引き起こしていた可能性が高いです。
吉村市長がツイートした9時20分と市教委が各学校へメール連絡した11時4分の間には、104分の時間があります。この間、休校に関して市教委はどういった行動をしていたのでしょうか。
保護者や学校以上に混乱していたのは、実は市教委かもしれません。
6/24追記:市教委は当初、休校判断を各校へ委ねていた
吉村市長のツイートに前後して、市教委が各校へ「休校は校園長の判断で」「休校しない学校は安全を確保のうえ教育活動を継続して」というメールを送信していました(時系列に追記しています)。
このメールと前後する形で吉村市長が「休校指示ツイート」を送信していました。市教委と市長の指示が全く異なったので、学校が何に従うべきかと混乱したのが真相ではないでしょうか。