兵庫県姫路市の私立認定こども園「わんずまざー保育園」(小幡育子園長)で、異常な保育が行われていました。
姫路の“劣悪”子ども園、全国初の認定取り消しへ
定員を大幅に超える園児を自治体に隠蔽(いんぺい)して受け入れ、劣悪な環境下での保育を続けていたとして、兵庫県と姫路市は18日までに、認定こども園法などに基づき、同市の私立認定こども園「わんずまざー保育園」(小幡育子園長)の認定を3月中にも取り消す方針を固めた。定員超過分の保育料を独自設定し、不当に受け取っていたほか、1人分の給食の量を減らすなどして経費を削減していたとみられる。市などは保育施設の適性を欠く行為と判断。運営費の公費負担を打ち切る。
内閣府によると、2015年の子ども・子育て支援新制度の導入に伴い、こども園の普及が進んで以降、認定の取り消しは全国初という。
市などによると、同園は正規の定員として園児46人を保育。これに加え、市に隠して直接保護者と契約した22人を受け入れ、定員の約1・5倍の園児を預かっていた。
園の利用料は、市が保護者の所得や園児の年齢に応じて徴収するが、22人分は同園が独自に料金設定。園児1人当たり月額2万~4万円を得ていたという。
給食は68人の園児に対し、40食前後を発注。これを分けていたため、栄養・量とも不十分な状態だったとみられる。乳児には主食と汁物などを一つのわんに入れ提供していた。
市などは、同園が行政からの給付金を満額受け取るため、保育士の人数を水増ししていた実態も把握。保育士は少人数で仕事を強いられていたとみられ、保育の安全性も問われる状態だったという。
県と市が2月23日、情報提供を受けて同園に特別監査を実施し、発覚した。同園は2003年11月に認可外保育施設として設立。15年3月、県の認定を受け、翌4月から年間約5千万円の公費が運営に充てられている。
小幡園長は神戸新聞の取材に「預け先のない保護者の要望に対応してきたつもりだが、監査で指摘された内容については、見直さなければいけないと思っている」と話した。
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201703/0010013115.shtml
神戸新聞(姫路支社)が集中的に取材を行っています。
・こども園に公費返還請求へ 姫路市、刑事告訴検討
・給食のおかずスプーン1杯 姫路の子ども園
・姫路のこども園「常に人員不足」 保育士が証言
・姫路こども園問題 園側、特別監査に不適切認める
・姫路こども園問題 姫路市の会見一問一答
姫路市の調査等によると、(1)正規定員46人の他に22人を私的契約児として預かっていた、(2)正規定員分の給食を全園児68人で分けていた、(3)保育士数を水増しして報告、激務を強いられていた、と言う問題が指摘・確認されています。
報道によると2016年1月に聞き取り調査を行ったが園は事実関係を否定、しかし関係者(恐らくは施設職員)から更なる情報提供を受けて2017年2月に抜き打ちの特別監査を行って数々の不正が発覚したそうです。
わんずまざー保育園とは
神戸新聞によると同保育園は2003年11月に認可外保育施設として開所、2015年4月に認定こども園へ移行したそうです。
同保育園は姫路市中心部からほど近い便利な場所にあります。姫路駅から道なりで約2km、臨海部の工業地帯にも近く、中心市街地や工場等で働く保護者の利用が多かったと推測されます。送迎用の駐車場も整備されています。
姫路市が公開している施設情報を見る限り、やや小ぶりな認定こども園と感じました。こども園は幼稚園機能と保育所機能を有する為に、総定員はやや大きい施設が少なくありません。
しかし、同こども園の定員は46人と少なめに設定されていました。1号認定定員は2名のみなので、実質的には保育所として利用・運営されていたのでしょう。
とは言え、46人は中途半端な人数という印象です。同年齢の園児数は多くないので人間関係の広がりに制限があります。また、施設運営に関する固定費が高い割合に留まってしまうでしょう。正規定員のみでの経営は余裕がなかったかもしれません。
一方、上で記したとおり、こども園がある場所の利便性は抜群です。その為、「定員外での入所」という誘いに乗った保護者が少なくなかったのかもしれません。
多数の私的契約児
最も重大な指摘事項は私的契約児の存在です。保育所等へ入所するには、自治体に入所申込を行う手続が必要です。しかし、これを迂回し、保護者と施設が保育契約を直接結んでしまうケースがあります。これを「私的契約」、対象となる児童を「私的契約児」と呼ぶそうです。
私的契約そのものは明確に否定されているわけではありません。旧厚生省通知では、その存在を正面から認めています(現在も効力を有するかは不明ですが)。
私的契約児の入所について
私的契約児については、定員に空きがある場合に、既に入所している児童の保育に支障を生じない範囲で入所させることは差し支えないものであること。
厚生省児童家庭局保育課長通知「保育所への入所の円滑化について」
一部の自治体では「保育所への私的契約による入所取扱要綱」を制定しています。
ときがわ町保育所への私的契約による入所取扱要綱
平成20年8月29日告示第87号(趣旨)
第1条 この告示は、ときがわ町保育所条例(平成18年ときがわ町条例第91号)に基づき設置するときがわ町保育所(以下「保育所」という。)に、保育に欠けない児童を私的契約により入所させるにあたり必要な事項を定めるものである。
(入所の条件)
第2条 町長は、保育所の措置児童が認可定員に満たない場合に限り、認可定員の範囲内において、保育に欠けない児童の入所を認めるものとする。(以下省略)
https://www.town.tokigawa.lg.jp/div/102010/htm/reiki/reiki_honbun/r292RG00000597.html
しかし、同通知では「既に入所している児童の保育に支障を生じない範囲で」、同取扱要綱では「認可定員に満たない場合に限り」とされています。
しかし、わんずまざー保育園は定員の半数に相当する多数の児童を私的契約で受け入れていました。
保育所等の正規定員は施設・保育士数等から上限基準が定められます。狭い保育室等では、多くの児童を受け入れられない仕組みとなっています。
数名程度の児童であれば基準内かもしれませんが、20名以上の私的契約児がいても基準内とは信じがたいです。保育室等にそれだけの余裕があれば、当初からより多い定員数を設定しているでしょう。
同園は、私的契約児の保育料は2万-4万円としていたそうです。単純に1人あたり3万円とすると、毎月60万円以上の追加売上があったのでしょう。
姫路市等に黙ってこっそり受け入れているわけですから、正規の帳簿に計上できる売上ではありません。いわゆる簿外売上です。今後、簿外部分に対して法人税・所得税等が課税される可能性があります。
分け合ったおかずはスプーン1杯
仮に話がここで終わるのであれば、「困っている家庭にこっそり手をさしのべた」と美談化できるかもしれません(私は賛同できませんが)。
しかし、同園では子供の成長に必要不可欠な食事を正規定員分しか準備せず、それを多数の児童で分け合っていたという点です。
市などによると、施設の面積などから算定された同園の定員は46人。だが、園内には0~5歳の約70人がひしめいていた。
特別監査があった日、同園が外部発注した給食は42人分。おかずを取り分けたが、0、1歳児にはスプーン1杯分しか行き渡らなかったという。
給食の不足は常態化し、土曜日に限っては10食のみに固定し、これを園児40人前後に分配。おやつは午後1回だけで、4、5歳児は「ビスケット3枚」もしくは「かっぱえびせん6本」に制限した。
余った給食は冷凍保存し、足りない日に解凍して提供。1カ月以上過ぎても使うケースがあったという。
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201703/0010013113.shtml
特につらかったのが食事だったという。魚のフライを切り分け、尾っぽしかもらえない子がいた。バナナ5本を輪切りにし、20人の園児で分けたこともある。「発育に大事な時期。ずっと疑問だったが、指摘できる雰囲気ではなかった」と打ち明けた。
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201703/0010013111.shtml
同園の給食は自園で調理せず、外部から搬入していたそうです。私的契約児の食事も依頼すると、外部業者から不審がられるでしょう。発覚を避ける為に正規定員分の食事しか発注していなかったと推測されます。
上記画像はとある日の食事だそうです。固形物ばかりなので、恐らく3-5歳児向けの食事だと推測されます。量・種類、ともにどう考えても足りません。必要量の半分にも満たない様に感じます。正規定員に見合う食事数すら発注していなかった可能性が感じられます。
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(3/21追記)
報道によると、同こども園で働く保育士が毎日の食事を写真に納め、姫路市等へ情報提供したそうです。良心の呵責に悩んでいたのでしょう。
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保育士数を水増し、激務を強いた
通常以上の児童の保育を行うと、保育士に強い負担が掛かります。しかし、同園は保育士を架空計上して補助金を不正受給すると共に、保育以外の業務も指示していたそうです。
また、給付金を水増し請求するため、架空の保育士3人を計上し、給与分は園長が個人的にプール。同じ敷地内で運営する学童保育の小学生らの送迎を保育士にさせたり、夜間のベビーシッターを兼務させたりしていたことも確認された。
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201703/0010013113.shtml
別の保育士も重い口を開いた。「掃除や洗濯など保育以外の仕事も指示され、学童保育やベビーシッターに無給で駆り出される人も。常に人員不足だった」
保育士2人で園児約20人の面倒を見て、トイレの世話などをしている間、子どもが鍵を開けて道路に飛び出したこともあった。「いつか取り返しのつかないことが起きないか、常にプレッシャーだった」と語る。
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201703/0010013111.shtml
多くの園児に対する保育が十分に行われず、それ以外の業務に担わされて疲労困憊になっている様子が窺えます。小幡育子園長は保育士をあたかも小間使いの様に扱っていたのでしょうか。
プールされた裏金の行方
こうした保育に対し、小幡育子園長は「認定を受ける前の)認可外保育所だった時代の感覚で運営していた。プールしたお金は遊具購入などで園児に還元するつもりだった。認定こども園としての自覚が足りなかった」ち弁解しているそうです。
認可外保育施設といえども、この様な少ない食事・不十分な保育士数による運営は許されません。認可外でも失格です。
保育士水増し・私的契約による簿外売上等による資金は、遊具購入等に充てる予定だった旨を園長は主張しています。しかし、この主張は俄に信じがたいです。様々な施設での前例を鑑みると、通常の保育に必要な支出も切り詰め、私的に流用していた可能性が非常に高いです。
簿外売上等の資金プール先の解明、残額の把握、流出先の調査が必要でしょう。
「また姫路市か」・・・自治体の責任は
これら問題により、兵庫県・姫路市はわんずまざー保育園の認定を取り消す方針だそうです。全国初の取り消しとなる見通しです。
一方、こうした認識を有する園長が運営する施設を認定こども園として認めた、自治体の判断には大きな問題があります。
待機児童解消を求めるニーズが強く、多くの自治体では数多くの保育施設を認可しています。しかし、だからといって認可基準を緩め、悪質な事業者が参入するのは容認できません。
実は姫路市には前例があります。理事長一族(後に解雇)による多額の私的流用が発生した社会福祉法人夢工房は、姫路市の補助金を不正受給していました。
わんずまざー保育園の話を聞いたとき、真っ先に「また姫路市か」と思ってしまいました。姫路市の保育に対する判断基準に、何か問題があるかもしれません。
こども園の認定が取り消されても、同施設は認可外保育施設として運営する事が可能だそうです。しかし、こうした園長が運営する保育施設が継続して良い筈がありません。
たとえば保育士の信用を傷つけるような行為を行った場合、知事は保育士登録を取り消す事が出来ます(児童福祉法第18条の19第2項、同法第18条の21)。こうした規定等を利すべきです。
「(園の運営は)認可外保育施設としては可能だ(姫路市監査指導課長等)」と言う甘い対応は許されません。
(3/21追記)
「【わんずまざー保育園】隠蔽工作・保育士との不当労働契約も明らかに」を掲載しました