平成27年5月17日に大阪市を特別区に再編する特別区設置協定書(いわゆる大阪都構想)についての住民投票が実施されます(詳細はこちら)。
これに関する議論が盛んに聞こえてきます。
特別区設置に掛かる住民投票に関係してしばしば見掛けるのは、「大阪市が5分割されると異なる特別区にある保育所等へ入所できなくなり、住民サービスが低下する」という主張です(越境入所)。
こうした主張が果たして本当か否か、可能な限り迫ってみます。
1.市内入所と越境入所の違い
大阪市分割・特別区設置によって越境入所扱いとなるか否かの前提として、まずは市内入所と越境入所の違いをまとめてみました。
実際に大阪市外から入所申込を行った方(4月までに大阪市内へ転居)からうかがった話を基にご紹介します。
(1)大阪市へ直接申し込むのではなく、現在住んでいる自治体を経由して申込みを行う
大阪市在住者が大阪市内の保育所等へ申し込む場合、各区の保健福祉センターへ申込書を提出します。
一方、市外在住者が申し込む場合は現に居住している自治体へ申請し、当該自治体を経由して大阪市へ申し込む形式となります。
間に大阪市以外の自治体が入るので、申込み手続は煩雑になります。
(2)利用調整点数が低くなる
大阪市内で保育所等へ入所するには、原則として点数制による利用調整が行われます(詳細はこちら)。
保育できない理由等に基づいて算出された点数が高い児童から入所が決められます。
例えばフルタイムで働いていれば100点(父母で200点)が基本点数となります。
しかし、市外在住者は保育できない理由に関わらず20点とされています。
大阪市内の保育所等には大阪市内で発生した税金が投入されており、まずは大阪市民が利用できるという趣旨でしょう。
(3)但し年度内に大阪市内へ転入するのであれば、市内在住者と同等に点数計算される
例外です。
不動産賃貸借契約書等によって転入先・転入予定日が確認できて年度内に住民票を大阪市へ移すのであれば、大阪市へ直接申込みができ、点数も市内居住者と同じ様に計算されます。
なお、大阪市内であれば、転入先はどこでも良いそうです。
保育所等への入所に不可欠である利用調整点数が低く抑えられてしまうので、大阪市外から大阪市内の保育所へ入所するのは極めて困難なのが現状です。
入所できているのは、大阪市民の入所選考が終わっても未だ入所枠に空きがある場合に限られているのではないでしょうか。
一方、年度内に大阪市内へ転入する予定であって転入先が決まっているのであれば、市内在住者と同じ基準で利用調整が行われます。
2.区を跨いだ入所者数と想定ケース
では、現時点で居住区と異なる区にある保育所へ入所・登園している児童はどれだけいるのでしょうか。
3月5日の大阪市会こども教育委員会の質疑にて、具体的な数字が述べられています。
・平成26年4月では46000人の入所児童の内、92%が居住区内に、残り8%の約3600人が市内の居住区外の保育所に入所に、市内から市外の保育所へ約60人が入所している
・特別区を跨ぐケースは2.9%
特別区を跨ぐ2.9%を人数に直すと約1330人となります。
では、特別区を跨ぐのは具体的にどういったケースが存在しているのでしょうか。
2月11日に放送された「VOICE」(MBS)で柳本顕議員(自民党)は「西淀川区から淀川区内の保育所へ通っているのは50~60名」と発言しています。
また、保育所毎の所在地や当ウェブサイトを経由してご相談を頂いた方々の入所希望保育所から推測すると、西区→福島区、城東区→都島区・中央区、阿倍野区→西成区、というケースが推測されます。
3.区を跨いだ保育所へ入所する理由
主として2つの理由が想定されます。
印象論となりますが、前者の方が多いと推定されます。
(1)隣接区にある保育所の方が通いやすい、職場へ通勤しやすい
周辺部から中心部への保育所へ入所するケースが専らです。
たとえば城東区から中央区へ通勤する場合、居住地の城東区にある保育所を利用するか、それとも職場近くにある中央区の保育所を利用するかは悩ましい所でしょう。
自転車通勤できる距離であれば尚更です。
大きな河川を越えての移動は想定しにくいものの、陸続きの保育所であれば隣接区であっても候補となるのが現状です。
(2)居住区の保育所は入所基準点が高くて入所できず、やむを得ず隣接区等の保育所へ入所した
逆に中心部から周辺部の保育所へ入所するケースが多く該当するでしょう。
市内中心部の保育所へ入所するには高い点数が要求される場合が多く、入所できない方は少なくありません。
今年は特に西区が厳しく、1-3歳児は入所できなかった児童が極めて多数に上ってしまいました(詳細はこちら)。
保育所へ入所出来なかった場合は地域型保育施設や認可外保育施設を利用する方もいれば、隣接区の保育所へ入所する方もいました。