公立保育所で働く正規職員たる保育士と任期付き保育士、どれだけ待遇が異なっているのでしょうか。

任期付き保育士らの昇給を 橋下市長「正規と非正規で差をつけるのはおかしい」 来年2月議会に条例改正案提出へ

大阪市の橋下徹市長は14日、市が任期付きで採用している保育士らについて、現在適用されていない昇給を認める内容の条例改正案を来年2月の定例市議会に提出することを検討していると明らかにした。昇給する正規職員との給料格差を解消するのが狙い。市役所で記者団の取材に答えた。

橋下市長は「正規と非正規で給料に差をつけるのはおかしい。職務の内容で差をつけるのが本来のあるべき姿だ」と話した。

市人事室によると、対象となるのは保育士とケースワーカー。現在、任期付きの保育士は133人、ケースワーカーは192人雇用しており、それぞれ月給として16万4千円と17万2800円を一律支給している。今後、正規職員の昇給の幅に合わせて処遇の改善を検討するという。

http://www.sankei.com/west/news/141014/wst1410140027-n1.html

大阪市の橋下市長は、記者団に対し、非正規労働者の待遇改善につなげるため、来年度から、任期つきの保育士などの給与を引き上げる仕組みの導入を目指す考えを示しました。
大阪市立の保育所には、勤続年数などに応じて昇給する正職員の保育士と基本給のまま、最長で5年間勤務できる任期つきの保育士が勤めています。
これについて、橋下市長は、「非正規労働者を守るため、『同一労働同一賃金』を実現させたい。非正規だからといって給与に差を付けるのはおかしい」と述べ、非正規労働者の待遇改善につなげるため、来年度から、任期つきの保育士の給与を引き上げる仕組みの導入を目指す考えを示しました。
大阪市では、保育士のほか、生活保護の事務などを担当する任期つきのケースワーカーも対象にして、導入に必要な条例の改正案を来年2月の市議会に提出したい考えです。
ただ、財源をどう捻出するかなどをめぐって市議会の野党会派から異論が出ることも予想されることから、市では、慎重に調整を進めることにしています。

http://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20141014/5313961.html

大阪市の任期付保育士は、主に育児休業に伴う採用として行われている様です。
同一職務同一賃金の是非を論じる前に、現時点において大阪市の公立保育所で働く正規職員たる保育士と任期付保育士、市内の私立保育所で働く保育士との待遇の違いを検討します。

数字等は原則として9月25日に発表された「平成26年職員の給与に関する報告及び勧告」から引用しています(平成26年4月1日現在の数字)。

(1)公立保育所で働く正規職員たる保育士
上記ページの職種別職員構成(保育士・幼稚園教員)から、平均値や構成割合等を引用します。

年齢:45.2歳
勤続年数:22.0年
学歴:大卒10%、短大卒86%、高卒4%
人員:980人(女性が98%)
給料月額:301,159円(給与減額措置後の数字、以下同じ)
扶養手当:6,195円
管理職手当:621円
地域手当:48,594円
住居手当::4,296円
給与月額:360,865円
特別給(賞与):3.95月分(平成25年実績)
推定年収:5,736,375円

今のご時世、短大卒で22年も勤続でき、600万円近い年収が得られる職業を見つけるのは極めて困難でしょう。

(2)公立保育所で働く任期付保育士
育休任期付職員(保育士)の募集について(こども青少年局保育所運営課)から、待遇等を引用します。
なお、任期付保育士の給与は今年4月より164,000円へ引き上げられています(3月までは151,100円))

給料月額:164,000円(今年3月までは151,100円)
地域手当:24,600円(給料月額の15%)
期末手当:2.67月分?(正規職員の67.5%)
その他手当:扶養・住居・超過勤務
推定年収:2,783,303円

正規職員たる保育士のざっと半額です。
なお給与月額188,600円(給料+地域手当)は、大阪市保育士の初任給水準(大卒)と同額です。
大阪市の給料表によると、同額の給与を得ている保育士は6人いるそうです(1級27号給)。
任期付保育士の待遇は新卒1年目の数字を念頭に置いて設定しているのかもしれません。

(3)私立保育所でフルタイム正規雇用されている保育士(臨時保育士・役員を除く)
上記ページの保育士民間給与実態調査についてから引用します。

役職名平均年齢平均勤続年数本俸諸手当(残業・通勤を除く)給与月額
施設長50.314.9341,48889,878431,366
主任保育士43.812.4268,47955,438323,917
保育士30.85.1192,47427,363219,837

保育士民間給与実態調査から大阪市の公立保育所で働く正規雇用保育士と比較すると、私立保育所で働く保育士は月額約5万円、主任保育士は月額約3万円ほど給料が安いという結果が窺えます。

(4)比較
下記の様な結果となりました(賞与等を除く)。

運営者雇用形態や役職平均年齢平均給与月額
大阪市(公立)正規雇用45.2360,865円
任期付?188,600円
私立施設長50.3431,366円
主任保育士43.8323,917円
保育士30.8219,837円

公立保育所で働く正規雇用保育士は、概ね私立保育所の主任保育士以上・施設長(園長)以下の給与を得ています。

一方、公立保育所で働く正規雇用保育士と任期付保育士の待遇は大きく違い、市立保育所で働く保育士の平均値をも下回っています。
昇給もなく勤務期間も限られ、かつ責任が正規職員並に重いのであれば、思う様に人が集まらないという話も肯けます。
責任と同時に良い待遇を求めるなら私立保育所の正規雇用、家庭等の事情があって短時間勤務を希望するなら私立保育所のパート保育士が第1選択となるのではないでしょうか。

局採用となる任期付職員については、我々の指摘を受けて一定の賃金面での改善が実施されるが、公募をしてもなかなか人が集まらないと聞いている。保育士についてはそのような状態が顕著であり、慢性的な欠員状態が続いている。任期付ケースワーカーについても退職者が多いと聞いている。職場では4月1日に欠員なくスタートできるのかが一番の不安となっているが、このことについての局からの回答は全くなされていない。公募に対して人が集まらないのは魅力ある職場と映っていないことや任期付と言う不安定な身分であることが大きく影響している。

平成26年3月28日 大阪市役所労働組合(市労組)との交渉議事録より

さて、任期付保育士に昇給を認めれば、果たして正規職員との給料格差は解消されるのでしょうか。
たとえば現在募集を行っている育休任期付職員(保育士)の募集について(こども青少年局保育所運営課)の場合、任期付職員としての任用期間は最長で2年3ヶ月(矢田教育の森保育所)、他は1年4ヶ月程度という期間が多いです。
育休職員の代替としての側面から、こうした期間になっているのでしょう。

どれだけの昇給幅となるかは不明瞭です。
高めに見積もって勤続1年後に月額1万円の昇給とすると、2年後の年収は約310万となります。
しかし、ここで任用は打ち切られ、次の職場を探す事になってしまうでしょう。
保育士の有効求人倍率の高さを考えると、大阪市公立保育所より待遇が良い保育所は見つけやすそうです。

となると、任期付保育士に昇給を認めても、これだけでは大きな魅力とはならなさそうです。
そもそも昇給は継続的雇用と相まって待遇を長期的に上昇させるものであり、雇用期間が当初から限られている場合における効果は限定的と考えられます。
「正規と非正規で差をつけるのはおかしい」のであれば、昇給以外の様々な待遇差の解消も必要でしょう。
条例で正規職員の67.5%と定められている期末・勤勉手当を同等に支給する、中途採用と同じ様に前職経歴の勤続年数を加算する、いった方法も考えられます。
また、一定の頻度で育休職員が生じる職場なの、で予め正規職員を多めに採用しておく方法もあり得ます。

改正案は2月市会で審議される予定です。
同市会では幼稚園・保育所保育料の変更も審議される予定とされています(幼稚園保育料は条例事項ですが、保育所保育料は条例事項ではないのが意外でした)。