大阪市は、障害児を受け入れる私立幼稚園に補助金を支給し、代わりに原則入園を拒めないよう義務づける「指定園」制度を導入する方針を固めた。

新年度の指定園として私立5園を想定している。橋下徹市長の目指す市立幼稚園の廃園・民営化関連議案の大半が昨秋、障害児の受け入れ問題を理由に市議会で否決されており、市はその解決策として提示する考えで、新年度当初予算案に関連予算を計上する予定。

補助金支給は他の地域でもあるが、入園の義務づけは異例。私立園から応募を受けて選定し、障害児1人につき年36万円を補助するほか、必要な施設改修費も半額を負担する。指定園は入園希望のある障害児を原則的に全員受け入れる。

大阪府では現在も、障害児が入園する幼稚園に1人につき年約40万~80万円の補助金を支給。しかし障害によっては園の負担が大きいといい、大阪市内の幼稚園での障害児の受け入れ割合は、市立園が私立園の3倍以上に上っている。

こうした現状から昨秋の市議会では、市立19園の廃園・民営化議案が提案されたが、14園について否決。当時、橋下市長は「独自の助成制度を作って再チャレンジしたい」としており、指定園制度が実現すれば、改めて市立幼稚園の廃園・民営化議案を市議会に提出する方針。
(2014年1月31日 読売新聞)

前提として、幼稚園における障害児の受け入れ状況について確認してみます。
2006年2月とやや古い資料ですが、幼稚園事業市政改革本部調査報告(経過報告)から以下引用します。
該当部分はP41-43です。
(上記資料は大阪市立幼稚園・私立幼稚園の現況等についてよくまとまっています。余談ですが、幼稚園職員の給与に驚きました。)

○大阪市における市・私立幼稚園の障害児の受入状況
障害の程度等によらず無条件に受入れている市立幼稚園の方が占有率は高い。

種別占有率*受入条件主な保育内容備 考
市立幼稚園5~6%程度
(2005年度現在約300人)
障害の程度によらず他の幼児と同じように全て受入れている。
(ただし、入園抽選が生じた場合は他の幼児と同様の扱いのため、落選する場合がある)
可能な限り総合保育を基本としている。
(園児の身体の状況等により個別保育も実施)
受入に必要な、設備の改修や、嘱託職員の配置等を実施
私立幼稚園1%未満・各園で基準が様々
・保護者と相談の上で決定
各園の状況による各園からの申請により、
府からの補助金あり

*全体の園児数に占める障害児数の割合

小中学校の当時を思い浮かべると、市立幼稚園に占める障害児の割合が5~6%というのは極めて高い割合でしょう。
35人学級で2人の割合です。
私立幼稚園の園児数は市立幼稚園の約3.5倍なので、絶対数で見ても私立よりも市立幼稚園に通園している障害児の方が多い事になります。
では、何故市立幼稚園が選ばれているのでしょうか。

<障害児の保護者の声・市立幼稚園への主な通園理由>
・進学する小学校のある地域の幼稚園で教育を受けさせたい
・他の幼児と区別することなく、同様の教育を受けさせたい
・地域の一員としての自覚をもたせることで、地域社会に受入れてほしい
・他の幼児とかかわることで、刺激を受けて、機能の発達を促進させたい
(個人面談等で寄せられた代表的な意見を掲載 資料:教育委員会事務局)

<市立幼稚園における障害児の受入れ体制>
臨時職員とその配置基準設備
・教諭や養護教諭等による対応を原則とするが、必要に応じて臨時職員の配置を実施。
・2005年度に配置した臨時職員
嘱託職員:42人、介助アルバイト:6人
・嘱託職員は比較的軽度な障害児数人に1名、介助アルバイトは比較的重度な障害児への個別対応のため1対1での配置を原則とする。
設備
・必要に応じて、スロープ設置などの改修を行うが、教職員の介添えで対応する場合もある。

保護者のニーズとして「地域社会や地元の児童と関われる地元の幼稚園」という地域性がまず挙げられます(地元志向)。
また、入園に際しては様々な基準が設けられていて相談が必要な私立幼稚園より、他の幼児と区別することなく同じ様な基準で受け入れている市立幼稚園が好まれていると推測されます。
一方、市立幼稚園サイドとしても、教諭・養護教諭等による対応に加えて概ね障害児6人に1人の割合で臨時職員を配置し、必要に応じて設備の改修を行って対応しているそうです。

では、導入が検討されている指定園たる私立幼稚園(以下「指定園」といいます)制度は、障害児や保護者、私立幼稚園のニーズに適うでしょうか。

1.地元志向
市立幼稚園が廃止・民営化された地域・学区に住んでいる障害児が幼稚園を選ぶにあたり、(1)最寄りの市立幼稚園、(2)最寄りの私立幼稚園、(3)指定園が主な選択肢として考えられます。

前提として、廃園・民営化がそれぞれ決定・予定されている市立幼稚園と最寄りの市立幼稚園・私立幼稚園への直線距離を表にまとめてみました。

市の方針幼稚園名最寄り市立幼稚園
への距離
最寄り私立幼稚園
への距離
廃園(決定)堀川幼稚園(北区)550m400m
中本幼稚園(東成区)450m1000m
瓜破幼稚園(平野区)320m1300m
津守幼稚園(西成区)1600m1200m
民営化(決定)泉尾幼稚園(大正区)認定こども園1800m530m
廃園(予定)海老江西幼稚園(福島区)800m400m
新高幼稚園(淀川区)1400m830m
旭東幼稚園(旭区)2500m600m
墨江幼稚園(住吉区)1000m 660m
民営化(予定)靭幼稚園(西区)500m1200m
野里幼稚園(西淀川区)1250m750m
城東幼稚園(城東区)1200m850m
常盤幼稚園(阿倍野区)認定こども園1400m630m
桜宮幼稚園(都島区)840m770m
玉造幼稚園(中央区)700m400m
五条幼稚園(天王寺区)850m230m
立葉幼稚園(浪速区)400m1200m
榎本幼稚園(鶴見区)2000m800m
粉浜幼稚園(住之江区)550m350m

(注:決定→市議会で議案可決、予定→市議会で議案否決も再提出の予定?)

当初から市立幼稚園は全学区に万遍なく配置されておらず、地域の協力を得てきた歴史的経緯から市中心部に数多く設置されています。
異なる学区でも自宅から徒歩ないし自転車で通園できる距離であれば市立幼稚園を第1候補に考えられると想定されます。
そうでない場合には私立幼稚園や指定園も候補として検討されるでしょう。
津守幼稚園を除いて上記幼稚園から1km以内に別の幼稚園があり、通園バス等による広域通園という側面もありますが、概ね「地元の幼稚園」が通園可能な選択肢であると考えられます。

一方、「地元志向」から考えると、遠方の指定園は現在の保護者のニーズとはややずれる様な気がします。
指定園は市内で5園程度の想定なので、遠方となる可能性が大きいでしょう。

2.受入体制

市立幼稚園が選択されやすい一番の理由はここだと思います。
私立幼稚園への入園には基準があって事前に相談が必要とあり、障害の程度等によっては入園を断られてしまうケースも発生していると推測されます。
一方で市立幼稚園はどの様な障害であっても他の幼児と同じ様に受け入れる事となっており、また臨時職員の配属もあるので入園・通園をさせやすくて安心感があると考えられます。

ここまで簡単にまとめた所、果たして(遠方の)指定園に対するニーズが本当にあるのか疑問を抱いてしまいました。
障害児の受け入れが問題であれば、廃園・民営化後の最寄りの市立幼稚園で補うのが最も簡単かつ地元性を残せる方法の様に思います。
同時に、市立幼稚園が付近に全くない地域の方はどの様に対処しているかも気になりました。
大阪市子育て支援施設データマップ(非公式)を見て頂けると分かりやすいのですが、市立幼稚園は歴史的経緯もあって地域的に偏在しており、全く無い区もあります。

幼稚園ではありませんが、子供がお世話になっている保育所でも数人の障害児がいます。
保育士さんからは「他の児童と同様に温かく見守って欲しい」というメッセージがあり、朝夕に見かけたら挨拶したりお話していたら、いつの間にか懐かれてしまいました。

仮に指定園制度を導入するのであれば、特別支援学校の様に公の事業として行うべきなのかもしれません。
どの様な案になったとしても、社会的に極めて弱い立場にある障害児の教育の為に、丁寧な話し合いが必要でしょう。