「敷地不足」「地代・家賃高騰」「採算が見込めない」から集まらない

次に検討内容を見ていきます。原案では「保育所等の開設が進んでいない地域における、公募促進策の検討」が挙げられています。

実は平成29年4月開所募集分につき、保育所は募集の半数以下(詳細)、地域型保育事業は4割(詳細)しか事業者が決まりませんでした。保育所は市内中心部、逆に地域型保育事業は周縁部で決まらなかった地域が目立ちます。

中心部と周縁部の大きな違いは「保育所用地の見つかりやすさ」「地代」です。

市中心部は保育所が建設できるまとまった土地が決して多くありません。土地があっても、マンション新築・駐車場等として利活用されています。賃借を申し込んでも、駐車場の方が収益性が高いとして難色を示された、という話を聞いた事があります。

但し、ビジネス街が広がっている都心部は例外です。保育所がオフィスビルにテナントとして入居・開所する形態があります。こうした保育所は既に市内数カ所で開所しています。

保育所の開所が著しく難航しているのは、「都心部を除く市内中心部」です。

一方、地域型保育事業は異なります。マンションの一室等で開所できるので、物件の見つかりやすさに地域性はありません。違いがあるのは「園児確保」という経営面です。

待機児童問題が特に深刻なのは、市中心部の0-2歳児です。保育所の入所倍率は極めて高く、入所できない児童が多数生じています。地域型保育事業を新たに開所しても、入所児童を集めるのは決して難しくありません。

しかし、待機児童が市中心部ほど多くない周縁部は違います。保護者は5歳児まで保育が可能な保育所を第1希望とする傾向があり、地域型保育事業は後順位の選択肢となっています。

その為、保育所へ入りやすい地域では、開所しても児童を確保できるメドが立ちません。開業費用・損益分岐点等から検討するに、「開所しても割に合わない」という結論になったと推測できます。少子化が進めば尚更でしょう。

これらを踏まえると、公募促進策は見えてきます。市中心部の保育所については地代補助の更なる増額・市有地の長期賃貸・民有地とのマッチング等の強化が考えられます。

一方、周縁部の地域型保育事業は、そもそも公募を行うべきかを再検討すべきでしょう。保護者ニーズと食い違っています。

なお、保育所・地域型保育事業、どちらであっても保育士の募集促進策は絶対的に必要です。人件費補助の引き上げ・非正規の公務員保育士の待遇向上・業務負担の軽減・柔軟な労働環境の整備等が考えられます。給料・働きやすさ・責任が見合えば、徐々に応募数が増えるでしょう。

なお、先の補正予算で借り上げ宿舎の賃料補助・就職支援金制度が可決されました(詳細)。一定の効果は見込めそうですが、地方の保育士不足・補助が終了した直後に大量の離職者を招きかねません。

偏在しているのは「保育所」と「大型マンションの建設」

また、原案では「保育ニーズの地域偏在への対応」が挙げられています。保育ニーズは本当に地域で偏在しているのでしょうか。

保育ニーズを「(在籍児童+利用保留数)/就学前児童数」として考えてみます。

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ニーズ率から考えると「港区・大正区・生野区・平野区・西成区は保育ニーズが高い」「中央区・天王寺区・阿倍野区は保育ニーズが低い」という結論が導き出せそうです。

しかし、この結論は感覚と全く一致していません。保育ニーズ・保育所等在籍率が高い地域は子供が多かった時代に多数の保育所を整備したが、今は少子化が急速に進んでいて保育所に容易には入れる地域となっています。

逆にニーズ率が低い地域は在籍率が低く、入所するのに著しく高い点数が必要な地域ばかりです。

偏りがあるのは「保育ニーズ」ではありません。偏っているのは「保育所」です。整備率と類似する在籍率が高い西成区は54.9%に達する一方、低い中央区は24.9%に過ぎません。倍以上の違いが生じています。

マンション敷地内の保育所設置は義務づけられるか

これに拍車を掛けているのは「市中心部への大型マンションの建築」です。

中心部の地価下落・職住近接志向の高まり・都会生活の利便性等から、市中心部の人口は急激に回復しています。子育て世帯・未就学児の人口も例外ではありません。

影響が直撃したのが市中心部の保育所です。保育所が少なくて幼稚園志向が強かった地域に、保育を必要とする子育て世帯が一気に増加したのです。保育所が瞬く間に不足し、新規開所しても全く追いつかない状態です。

対応すべきなのは「大型マンション建設に伴う保育所不足」でしょう。大阪市では一定以上の規模のマンションを建築する際には関係部署への届け出等が義務づけられています(大規模建築物の建設計画の事前協議)。

が、建築に対応する形で保育所等を新設する動きは殆ど見受けられません。区として募集は行いますが、やや離れた地域に保育所が出来るというケースが専らです。

実現可能性や法的な問題の有無は別として、根本的な対応策は大型マンション敷地内への保育所設置の義務づけでしょう。

こうしたマンションは日当たりが良く、一等地にある事が多いです。しかし、新設される保育所は日当たりが悪い・交通量が多い・路地の奥の設置されるケースが少なくありません。子供が長時間過ごす場所の環境の悪さに、思わず絶句した事があります。

例えば大阪市内では鉄道の高架橋のすぐ近く、ラブホテルの裏口正面に保育所が新設された事がありました(詳細)。心の中で「ここはちょっと・・・・」と呟いてしまいました。

例えば「ファミリー向け大型マンションを建築する際には、敷地内に保育所用スペースを整備して大阪市へ賃貸し、大阪市は公募事業者へ転貸する(代わりに容積率等を優遇)」という方法が考えられます。保育所の物件不足・賃料問題が大きく解消されるでしょう。

市中心部への子育て世帯の転入は止まりません。市として都市の魅力を高めたいのであれば、大型マンション建築に伴う対応を一歩踏み込むべきです。

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