とある大阪市立中学校で配布されたプリントが話題になっています。

「月経中でも基本的に水泳の授業に参加する」「だれもが安心して授業を受けられるように協力しよう!」と記載されています。

https://twitter.com/0_0amirum0_0/status/1116210697132576768

児童・生徒が月経中・生理中であっても、プールに入水して授業を受けるべきでしょうか。

大阪市教育委員会の見解が「市民の声」に掲載されています。

生理中のプールについて
2018年11月30日

市民の声

生理中の女子生徒に水泳授業を強制する学校が全国にあります。大阪の市立中学にもあると、保護者数名に聞きました。休むと内申を下げられるので、事実上強制になっています。
他人の血を踏んだり傷口や粘膜に入るなどの衛生面、女子の体調や心を傷める指導です。セクハラというより虐待です。水圧で水中では血が出ない、タンポンを使うなどを理由に入らせるようですが、水からあがれば血は出るし、水中で血が出る人もいます。皆の前で血を流す恥ずかしさはイジメに等しいです。

思春期の未成熟な体ではタンポンをうまく装着できず激痛があったり、漏れることもあります。大人でも使えない人もいるし、子宮内膜症やTSS症候群などの病気になる可能性もあります。危険性のある物を水泳部でもない10代に勧めないでください。危険や恥ずかしさを無視してまで水泳する必要があるのでしょうか。

また、休んだら校庭を何十周も走ったり、補講で何百メートルも泳ぐなど厳しいノルマがあり、それでも点数を下げることもあります。体調不良で休んだのに懲罰のような運動をさせるのはひどいと思います。生理は平均で4、5日あります。まれに1カ月続いたり、ひと月に2回くる子もいます。休んだら補講のやり方は女子には不利だと思います。見直してもらえないでしょうか。

水泳授業のない高校を受験する女子も少なくないようです。私たち一般市民にも悪影響がありそうです。この指導で女性の体の仕組みが誤解されて、生理中に公共のお風呂やプールに入ったり、それを他人に強要する子が増えるのではないでしょうか。

ある区の一部の中学校では、生理の子は皆よりも早く入水して、最後に出るというような指導があったようです。別の学校では「出血したらホースの水で洗い流すから男子にもわからない」と教師に言われたそうです。生理中の女子に水泳を強要しないこと、体調不良で休んだ後に厳しいノルマを課さないこと、評価を下げないことを、全ての学校に徹底してほしいです。

市の考え方

「近年スポーツ医学の進歩に伴って、科学的な研究が積み重ねられ、現在のところ、水泳を実施することで月経に伴う諸症状が悪化することはない」と文部科学省の「水泳指導の手引き」において示されており、本市での水泳指導の手引きにおいては「水泳は可能であるが、内容に制限や配慮を要する児童・生徒の指導にあたっては、学校医との連携を図るとともに、保護者や本人とも十分話し合い、本人の立場を理解して、その方向性を考える必要がある。」と示しております。

教育委員会といたしましても、生徒一人ひとりの心身の状態に応じて、当該生徒や保護者と話し合い、当該生徒の状況を十分に理解したうえで、心理的要素等も含めて諸症状によって、個々に適否を判断することとしております。

この度のご指摘を受けまして、各校の生徒及び保護者さまに対し誠実に対応し、教育活動について、充分にご理解いただける丁寧な説明を行うよう、改めて学校長に対し指示しております。ご不安やご不明の点につきましては、担当へご連絡いただきますようお願いいたします。

https://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000452286.html

文科省・大阪市は「水泳指導の手引き」を作成している

大阪市は平成24年8月に「水泳指導の手引き」を作成しています。

ここに「水泳は可能であるが、内容に制限や配慮を要する児童・生徒」に関する考え方が掲載されています。

水泳は可能であるが、内容に制限や配慮を要する児童・生徒については、指導者ならびに、他の児童・生徒も認識できる工夫が大切である。また指導にあたっては学校医等との連携を図るとともに、保護者や本人と十分に話し合い、本人の立場を十分に理解してその方向を考える必要がある。

※水泳指導に配慮を要する児童・生徒の疾病例
○心臓病・腎臓病の者(専門医の診察判断が必要となる。)
○呼吸器疾患の者(気管支炎、肋膜炎、肺結核性、喘息は学校医の指示に従う。)
○急性中耳炎、急性外耳炎、伝染性結膜炎等、発作を伴う疾病を持つ者。
○病気直後、手術直後の者。
○高濃度塩素に過敏な者

見学者の指導については、一人一人の児童・生徒に学習の機会を確保するという立場から、学校として統一した見解を持って対応しなければならない重要な事項である。

見学の理由はいろいろであり、その状態も様々であるが児童・生徒一人一人の心身の状態に応じて学習に参加させることが必要である。具体的な参加内容としては、次のようなことが考えられる。

① グループと行動をともにし、プールサイドで、計時、監視、学習カードの記録などのほか、学習資料を利用してグループでの学習に参加させる。

②見学ノートと実技に関する資料を持たせ、学習内容をメモするとともに、副読本により学習内容の理解を深めさせる。
なお、熱中症に対する対策を講じることはもちろん、日焼けに対しての配慮やその他安全面に対する配慮が必要である。

ただ、月経や生理は例示されていません。これは、文部科学省が作成した「水泳指導の手引き」に基づく考え方でしょう。

「市民の声」への回答で大阪市が引用している「水泳指導の手引き」とは、文部科学省が平成16年にまとめた「水泳指導の手引(二訂版)」です。

http://mobile.pref.oita.jp/uploaded/attachment/2003018.pdf#page=54

「水泳を実施することで月経に伴う諸症状が悪化することはないと考えられている」「月経中の水泳指導については、全面的な禁止ではなく、心理的要素等も含めて諸症状によって個々に適否を判断することが必要である」としています。

症状が悪化することはないので、大阪市は疾病例から外しているのでしょうか。

ただし、この記述は、平成26年3月に発行された学校体育実技指導資料第4集「水泳指導の手引(三訂版)」では削除されています。「月経」や「生理」で検索しても抽出されません。

これらから、月経中のプール授業につき、文部科学省は特段の見解を表明していないと考えられます。現場の判断に委ねる趣旨でしょうか。

なお、大阪市が「市民の声」で二訂版の記述を引用して返答するのは、少し適当ではないでしょう。三訂版が公開された後も、大阪市は「水泳指導の手引き」を改定していません。

であれば、個別の事情を考慮の上、「保護者や本人と十分に話し合い、本人の立場を十分に理解してその方向を考える(大阪市の手引きより)」必要があるでしょう。

しかし、中学校から配布されたプリントからはこうした配慮があまり窺えません。少し残念です。

内申書を下げられる可能性があると休みづらい

また、中学校特有の問題もあります。「内申書」です。

仮に月経中に水泳の授業を休むことが広く認められていても、成績評価や内申書が下げられると休みにくくなります。

こうした場合には見学者が何らかの形で授業に参加し、それを基に適正に評価することが重要ではないでしょうか。

大阪市も手引きにて「プールサイドで、計時、監視、学習カードの記録などのほか、学習資料を利用してグループでの学習に参加させる」「見学ノートと実技に関する資料を持たせ、学習内容をメモするとともに、副読本により学習内容の理解を深めさせる」と指摘しています。

これは男女・年齢に関係ありません。男児や低学年の児童生徒であっても、体調不良等で水泳の授業を休むことは少なくないでしょう。

運動場で行う体育の授業と比べ、体調を配慮するハードルが非常に高いです。子供の様子が万全でなければ、私はプールカードに「参加不可」と記入してもたせています。

もしも内申書を下げられる恐れがあれば、月経中・体調不良であっても水泳の授業への参加を強制する効果があります。

最も重要なのは「安全な水泳の授業」です。児童・生徒に無理を強いる制度や運用はよくありません。

(追記)
声を上げた方が、大阪市教育委員会とのやりとり等をブログで公開しています。

https://irefuse.hatenablog.com/