大阪市は様々な手段を利用して待機児童問題の解消に取り組んでいます。平成30年4月に向け、既に4,000人以上の定員増が確定しています。

しかし、中には「少しおかしいので」と感じる対策もあります。これから紹介する「保育送迎バス事業」がその一つです。

保育送迎バス事業の概要

 今般の事業は、西区北堀江にある大阪市公文書館内に保育送迎ステーションを設置し、この地域の3歳から5歳までお子さんを保護者から預かり、日中はお子さんを送迎バスにより中央区森ノ宮中央1丁目の市有地に新設する認可保育所に送迎して保育するものです。

 また、西区の0歳から2歳までのお子さんを保育する小規模保育事業所を大阪市公文書館に設置するものとします。

 今般の事業の実施にあたっては、本市が貸付を行う中央区森ノ宮中央の市有地に、送迎先となる認可保育所を新たに整備することを条件とし、この保育所には、送迎を利用するお子さんのほか、中央区のお子さんも受入れ、保育を行うものとします。

http://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/kodomo/0000412186.html

西区や中央区といった市内中心部では、共働き世帯の増加によって保育を必要とする子供が急増しています。

しかし、保育所等に適した土地やテナントを確保するのが容易でなく、保育所の整備が順調に進んでいるとは言い難いのが実情です。

その為か、中心部では保育所より小規模保育の開設が目立っています。しかし、原則として2歳児までの保育しか行われず(例外的な3歳児保育が検討中)、卒園後の保育の場が見つかりにくい問題が上程します。

一方、中心部以外の地域は少子化が進展しています。中心部と比べて保育所には入りやすく、中には大きな欠員が生じている保育所もあります。

こうした課題を解決する方法の一つが「保育送迎バス事業」でしょう。市内中心部で小規模保育を開設して0-2歳児を預かる一方、ここを経由して郊外にある保育所へ3-5歳児を送迎する方法です。決して悪くない組み合わせだと感じています。

どうして森ノ宮へ送迎?

しかし、大阪市が発表した「保育送迎バス事業」は筋が決して良くありません。最大の問題点は「送迎先が中央区森ノ宮」という点です。

大阪市内で保育所へ入所するのが最も難しい地域の一つは西区東部です。それには及ばないものの、入所するのが難しい地域の一つが「森ノ宮地域」です。

当ウェブサイトでは【H29版】大阪市子育て支援施設マップ(非公式)を公開しています。森ノ宮地域を切り出してみました(図中の赤丸が送迎先予定地)。


【H29版】大阪市子育て支援施設マップ(非公式)より

送迎先予定地を囲む様に、蓮美幼児学園もりのみやナーサリー森之宮保育園北中本保育所が設置されています。

H29一斉入所(それ以前も含む)では、多くの方が3保育所を第1希望とし、倍率は1.69~3.33倍でした。入所するには、少なくともフルタイム共働きに準ずる点数が必要でした。

この様に、森之宮地域は保育所が不足しています。森ノ宮駅前という一等地に新設される保育所へ、西区から送迎する必要があるのでしょうか。森之宮や周辺地域からの入所者で、定員は明らかに充足されます。入所できない児童も生ずるでしょう。

また、北堀江から森之宮へは市内中心部を横断して移動してます。距離は約4kmと遠くないものの、わざわざ道路渋滞が激しい中心部を横断させるのは感心しません。

小規模保育から西方面の保育所へ送迎するのは難しかったのか

以前に保育バス送迎事業という話を聞いて想定したのは、「中心部から郊外の既設保育所への送迎」でした。

西区東部の場合、西区内の西部地域、2-3kmほど移動すれば港区や大正区の保育所へ着けます。いずれも森之宮より近く、道路渋滞も少ないでしょう。

こうした地域にある保育所は、多くが広大な敷地を有しています。外でのびのびと遊べるでしょう。また、入所倍率はやや低く、中には欠員が生じている保育所もあります。

また、地代が安くて土地が余っているので、新たな保育所を建設するのも容易です。大阪市が所有する土地(もと大正橋倉庫跡等)を貸与する方法も可能でしょう。

西区から西側方向へ送迎する方法は検討されなかったのでしょうか。検討した結果、見送られたのでしょうか。

小規模保育・保育所・送迎バスを一括提供できる事業者は限られる

本事業の規模の大きさも気掛かりです。大阪市は小規模保育と保育送迎ステーションの設置(建物は市が貸与)、送迎バスの運行、森之宮での保育所建設(土地は市が貸与)を求めています。

通常の保育所新設と比べて事業規模は格段に大きく、毎日のオペレーションは複雑になります。これだけの事業を整備・維持できる保育事業者は決して多くありません。(失礼ながら)我が家がお世話になっている保育所では到底無理です。

可能性があるのは、市内に本部機能を有して複数の保育所等を運営している事業者でしょう。

北堀江も森之宮も保育需要が高く、開所初年度から定員をほぼ充足するでしょう。2年目以降も充足し続け、毎年多くの入所希望が集まるでしょう。安定した収益が期待できます。

募集は11月27日まで、次回教育こども委員会は12月6日予定

本事業の募集は10月12日から11月27日まで、12月上旬までに審査が行われ、12月中旬に結果が公表されます。

一方、大阪市会教育こども委員会が次に開催されるのは12月6日です。前回の開催時(9月下旬)には、本事業に関する質疑等はありませんでした。委員会と委員会の間に公募や審査を行う日程となっています。

出来れば再考を

本事業は中央区(城東区西部を含む)・西区の両方にとってデメリットが大きいと感じています。

中央区としては、せっかく便利な森ノ宮駅前に新設される保育所定員の一部が、西区からの登園者で埋まってしまいます。地元の子供がどこにも入所できず、遠くから登園する子供が優先的に入所するのは納得し難いでしょう。

西区から遠くまで登園する子供も大変です。地元との繋がりを作る機会が奪われてしまいます。仮に送迎するとしても、卒園後も遊びに行きやすい近隣地域が望ましいでしょう。

両施設の窓口となる区役所も大変です。各区役所は区内の事情には詳しくても、区外の事情は疎いのが実情です(仕方ないですが)。施設に関する相談に対し、適切に対応できない恐れもあります。西区内での送迎なら単純なのですが。